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福岡家庭裁判所 昭和32年(家イ)2号 審判

申立人 西トミ(仮名)

相手方 西多市(仮名)

主文

一、申立人と相手方とを離婚する。

一、相手方は申立人に対し婚姻費用負担金(長男和雄入院費用並びに生活費用)として金拾万円及び離婚に基く慰藉料として金拾万円を左記方法により支払わねばならない。

昭和三十三年九月から昭和三十四年八月まで毎月金壱万五千円宛を各月末日までに支払い外に昭和三十三年十二月末日に金弐万円を支払うこと。

一、申立人は爾後本件(離婚)に関し金銭その他一切の請求をしてはならない。

一、申立費用は各自弁とする。

理由

本件申立の要旨は申立人と相手方は大正十四年十二月正式に挙式の上夫婦生活を始めたが十月を経過するも実子が出生しないので相手方の実兄西正市の子和雄を申立人等の長男に偽装して入籍させ同時に申立人も相手方の妻として正式に入籍手続した、相手方は近海航路の船長をつとめ家庭内に別に破乱もなく比較的平穏な日々を過してきたが昭和二十八年二月相手方の実弟西尚市が死亡したため同人の養子を伴い郷里○○○郡○○○町に移住せよとの相手方の命に従い申立人は長男和雄と共に相手方と別居した、然るに相手方は昭和二十九年七月以来申立人に生活費の仕送を絶ち長男和雄の学資(○○大学法科二年)の送金もしなくなつた、このため長男和雄は「アルバイト」によつて学資を得つつ苦学力行していたが過労が原因で罹病し前途を悲観して自殺を計るの仕儀にまでたち至つた、幸い同人の一命は取止め得たが相手方は入院費用七万円のうち二万円を電報送金してきたのみで恬として顧みないので不足金五万円は申立人の実兄より借受けて支払つた、申立人は相手方に対し度々書信して善処方を要望したが全然取合つてくれず申立人親子は一銭の送金もないため今日迄に九万円の負債を生ずるに至つた。

申立人は相手方と三十年の永きに亘り夫婦として過して来ているのであり出来得れば再び同居生活を送るべく叙上の苦労に対し我慢に我慢を重ねて今日に至つたがこれ以上到底我慢が出来ないので相手方に対し離婚を要求したが只勝手にせよとのみ一向に取合つてくれないので離婚並びに申立人が負担する債務金及び慰藉料十万円の支払を求めるため本件申立に及ぶというにあり、相方手は

申立人の主張事実は争わない、(1)申立人と離婚することを同意する、(2)相手方は申立人が負担する債務のうち金十万円を負担する、この債務の弁済には相手方が直接弁済する方法をとらずに相手方より申立人に金十万円を渡すからそれによつて申立人に於て弁済してもらいたい(3)相手方は申立人に対し離婚に基く慰藉料として金十万円支払う、右債務負担金十万円と慰藉料金十万円の支払は一時にはできないから分割払で支払いたい、その分割払の方法は昭和三十三年九月から昭和三十四年八月まで毎月金壱万五千円を毎月末日までに支払い外に昭和三十三年十二月末日に金弐万円を支払うことにしたい、(4)右の外は今後離婚について一切請求しないこと

以上の条件により相手方と離婚したい

と答弁しなお相手方は船員で度々調停期日に裁判所に出頭することは不可能であり近くシンガポール方面に航海することになつて居り一度乗船すれば相当長期間日本に帰れないから本件は本日解決してもらいたいと陳述した。

昭和三十三年九月一日の調停期日に申立人不出頭のため調停成立するに至らないが相手方の所為は民法第七百七十条第一項第二号に該当するものというべく且つ当事者双方の主張も略々一致しているので当裁判所は家事審判法第二十四条により調停に代わる審判を為すを相当と認め当事者双方のため衡平に考慮し一切の事情を斟酌して主文のとおり審判する。

(家事審判官 亀井勝一)

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